紙袋やビール缶用手提げ袋などに幅広く使われるポリエチレン製の取っ手。松浦産業(香川県善通寺市)は後発ながら効率的な生産設備で市場を開拓し、89年以来トップメーカーの地位を維持してきた。現在、年間3億本とされる国内市場で同社のシェアは約6割に達しているという。
■「年商の半分でも」
「新規参入には高品質、低価格が大切。市場性が高いと判断すれば年商一億円の商品に5000万円の設備投資をしても構わない」。松浦公之社長の戦略は明快だ。ポリエチレン製取っ手「ハッピータッグ」も4000万円以上を投じて自動化設備を導入。参入から4年目でトップに立った。 松浦社長が同市場への参入を決めたのは80年代初め。当時はポリプロピレン原糸を生産し、荷造り用や紙袋の取っ手用ロープに加工して販売していた。しかし81年ごろ、流行を調査するために空港の手荷物受取所をチェックしていた松浦社長は、ポリエチレン製取っ手を発見。しかも数ヶ月で急速に数が増えてきたため、紙袋用ロープの市場が危うくなる」と決断した。
調べて見ると、ポリエチレン製取っ手のパテントは大阪の個人が所有し、既に4社が契約していた。松浦社長は大阪に出向いて直談判。82年暮れに、契約していながら生産を休止していた東京の取っ手問屋の加工工場になることで、市場に参入する権利を得た。
■生産性、他社の3倍
後発だけに、競合3社と同じ戦略では市場開拓は難しい。松浦社長は「他社が手作業に頼っている成型後の取り出しをロボット化して、生産性を引上げることを考えた」と振り返る。
そのため、射出成型機メーカーの日精樹脂工業、昭和電工の2社と協力。ロボット化に対応した精度を得るため、「他社の金型が300万−400万なのに対し、1200万円をかけて高精度の金型を製造した」。原料も昭和電工が開発した型から離れやすい高圧ポリエチレンを採用した。
機械や原料の改良を重ね、本格販売にこぎ着けたのは86年。約4200万円の投資になったが、時間あたりの生産量は他社の3倍。当時、1本4円だった市場に3円60銭で参入し、「しかも高品質で短納期だったことから注文が殺到した」という。89年までに設備を8ラインに拡充して生産能力を年間約2億本に高めたことで、「ビール缶の袋用など新たな用途も開拓できた」と胸を張る。
■120の工業所所有
もともと同社は木製鋤(すき)メーカーだったが、市場環境に合わせてワラやイ草のロープ、ポリプロピレン製ロープ、さらにポリエチレン製取っ手などの包装資材へと商品群を変化させてきた。 現在、所得している特許や実用新案などの工業所有権は約120。荷造り用ロープや紙袋用の布製取っ手でもトップシェアを持つ。年間売上高は18億前後で横ばいだが、今後も、ダンボールなどに貼り付ける取っ手など、顧客ニーズに対応したニッチ(すき間)商品を拡充することで高収益体質の強化を進めていく戦略だ。